経絡治療の真価4

生命のヴァイヴレイション

〜清水はり灸療院(京都市下京区)〜


 糖尿病患者19名食前・食後の血糖値の上昇が、「笑い」によって平均46(mg/dl)下がったという有名な実験があります。これは「笑い」というポジティブストレスによって良い遺伝子がONになり、悪い遺伝子がOFFになった結果だということです (参考:『遺伝子ONで生きる』村上和雄・著)。

 それでは、「脉(みゃく)の形を美しく変えてさまざまな症状を取ってゆく鍼治療」=経絡治療は、これもひとつの大きなポジティブストレスではないでしょうか?多くの良い遺伝子をONにすると考えられないでしょうか?



 遺伝子はDNAの配列が良いか悪いかよりも、それが発現するかしないかの方が重要であるという立場があり、それはエピジェネティックスと呼ばれます。悪いDNAの配列があっても発現しなければ病気は起こりませんし、良いDNAの配列があっても発現しなければ健康に寄与することもありません(参考:『エピゲノムと生命』大田邦史・著)。

 良い遺伝子だけを発現させようとする遺伝子標的薬なども開発中とのことですが、生物の最も微妙な仕組みである「遺伝子の発現」を正確に操れるような薬が創れるとは思えません。生命の最も微妙な「ゆらぎ」のようなものに適切な作用を与えるには、最も微妙な外部からの操作により内部にまで良い効果を与える、鍼灸の経絡治療のような治療法にその可能性があるのかもしれません。 



 表皮の細胞ケラチノサイトには触圧覚や痛覚、温度感覚などがあり、さらには音や光、電磁波などを感知することも可能だということが分かっていますす。またケラチノサイトでは、NO(一酸化窒素:血管拡張作用)、β-エンドルフィン(鎮痛作用)、コルチゾール(抗炎症作用)、オキシトシン(ストレス緩和)、エリスロポイエチン(赤血球増量)、ドーパミン(意欲増強・行動の動機付け)、ノルアドレナリン(意欲増強・集中力増強)などの生理活性物質が合成・分泌されている可能性があるそうです(参考:『皮膚感覚と人間のこころ』傳田光洋・著)。

 経絡治療は、鍼先を表皮のごく浅い部分に到達させる程度の無痛の浅鍼ですが、表皮の細胞への僅かな情報入力が有効なホルモンや生理活性物質の分泌を促し、その働きによって疾患治癒に寄与している可能性があるわけです。血管拡張や鎮痛、ストレス緩和は、鍼灸の効果として言われてきたものですし、脉の形を美しく変える経絡治療の効果としては相応しいものでしょう。



 アメリカの科学者ルドルフ・シェーンハイマーの動的平衡理論では、人が食べたものは消化吸収されると瞬時に分子・原子のレベルまで分解され、拡散し、身体のあらゆる場所で分子や原子が入れ換わり続けているそうです。生命体と環境との間で分子の循環を続けているといえるわけです(参考:『もう牛を食べても安心か』福岡伸一・著)。

※この著書は臓器移植や抗鬱薬についての考察も納得できます。もちろん、牛を食べると狂牛病病原体の感染リスクがあります。 

 では、もし何らかの理由で適当な場所へ分子を分配できずに偏りが生じると、その部の細胞は適切な入れ換わりができず、細胞群は老化し、組織・器官は衰弱するでしょう。そのような五臓六腑の不調和や気血水の滞り・偏りを正常化すること(必要な部位へ分子を差配すること)は、鍼灸・経絡治療の最も得意とすることなのです。



 口呼吸を続けていると喉の扁桃が冷え、冷たいものばかり食べていると腸(特に免疫の中枢となっている遠位回腸のパイエル板)の扁桃が冷え、それぞれのM細胞に控えている白血球が活性を失い、細菌やウイルスが処理されず、体中にバラ撒かれて細胞内感染し、各細胞のミトコンドリアの働きが阻害され、それが全ての病気の原因だとする説があります。
 口呼吸を止めて鼻呼吸にし、冷たいものを控え、ゆっくり上向きで眠るなどの生活を心がければ病気にならないそうです(参考:『免疫を高める生活』西原克成・著)。

 東洋医学でいう「風寒暑湿の外邪が身体を冒す」というのは丁度この説に合致し、ストレスなどで生気が弱った時に外邪を受けやすくなります。冷飲食すれば肺気を傷り、皮膚の衛を弱くし、外邪に侵されやすくなります。
 普段鼻呼吸の人が口呼吸になってしまうのは急激なストレスで呼吸が浅くなった場合で、そんな時はストレスによる身体へのダメージを少なくしなければなりません。また鼻が詰まって鼻呼吸が出来ない人は鼻を通さないといけません。こういう事が得意なのも鍼灸・経絡治療なのです。東洋医学の養生法では冷飲食は戒めていますし、免疫力強化も経絡治療の得意とするところです。



 血球を造っているのは骨髄ではなく腸管だとする説があります(腸管造血説)。胃を通過した食物が小腸で栄養として吸収されるとき、小腸の壁の細胞が分離し、赤血球となって血流に乗って移動し、必要としている細胞付近に到達したらそのまま接合してしまうというのです。また、体細胞が血球に戻って移動し、別の細胞に成ることも可能だとしています(細胞可逆説)。まさに「体は食べたもので出来ている」ことがよく解り、著者は玄米菜食と適量の塩分摂取を奨めています(参考:『細胞を綺麗にして、病気を防ぐ、治す』森下恵一・著)。

 東洋医学では水穀(食物)は小腸で栄気に変わり、血脉中で血(ケツ)に変わります。血は五臓六腑や四肢を栄養しながら巡るとされます。心拍とともに血を運ぶのが血脉であり、鍼灸・経絡治療は脉の形を美しく変えることで身体の各部分を正常に動かすことに寄与し、同時に生命力の強化を図り、その結果として病が治癒するという反応が起こるわけです。
 もちろん、五味の偏らない食事を摂ることも重要ですし、毒物は口にしないに越したことはありません。



 大腸には600兆個もの腸内細菌が棲息しており、このうち20%が善玉菌(乳酸菌・ヴィフィズス菌etc.)、10%が悪玉菌(ウェルシュ菌・セレウス菌etc.)、70%が日和見菌だとされています。体内で働く有効な生理活性物質の多くは大腸内の善玉菌でつくられていることが分かってきました。善玉菌の一種がつくる酪酸は糖尿病などの生活習慣病を予防することで知られ、またドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンといった、脳や神経で働く各種の神経伝達物質の前駆体も善玉菌がつくっているようなのです。これに対して悪玉菌は発癌物質のような毒物をつくります。善玉菌は野菜の食物繊維、悪玉菌は肉のタンパク質や脂を餌としているようです(参考:『免疫力は腸で決まる!』鞭野義己・著)。

 東洋医学では小腸で吸収されなかった槽粕(カス)から衛気が発生するとされ、この衛気は体の表面を守ったり温めたりする陽気のことで、またこれが脉外を流れて血流を促しています。人は、眠っている間は陽気が内部を巡っており、朝になって陽気が外部にを巡ってくるからこそ起きて働けるわけです。
 気血の停滞を改善し過不足を調整する経絡治療の効果は、科学的な立場で見れば、胃腸の環境を整えて大腸菌がつくる生理活性物質の量にも影響を与え、例えばドーパミンでやる気を起こしたり体が動き出す時に働く力を与えたり、セロトニンでリラックスさせたりしているのかもしれません。



 「ありがとう」と書いた紙を貼った”水”と、「ばかやろう」と書いた紙を貼った”水”をそれぞれ凍結させて、その氷の結晶を顕微鏡下でみると、「ありがとう」のほうは綺麗な結晶を作っているのに対して「ばかやろう」のほうは崩れていたということです。これは「ありがとう」という言葉により良い波動を水に伝えた結果だということです (参考:『水は答えを知っている』江本勝・著)。

 それでは、「微鍼で生気を補ったり、邪気を瀉したりして脉(みゃく)の形を美しく変えてゆく鍼治療」=経絡治療は、患者様のお体に良い波動を伝えていないとできないのではないでしょうか?体内の水は、このとき喜んでいるような気がするのです。 



 最後はフッサール哲学です。人間の主観は、いろいろな計器類を備えた「外へ出ることのできない月面探査船」に例えられ、直接外に出て調査できない(客観に触れられない)から、多くの他の探査船(他人)のデータを集めて共通了解をつくっている、それがつまり客観的とされているものです。自然科学は客観的であっても、客観をそのまま写し取ったものではありません。その中の一つの(西洋)医学もしかりです(参考:『現象学入門』竹田青嗣・著)。 

 客観に一番近いのは自分の五感で知覚したものです。触覚所見を大事にする東洋医学・鍼灸、さらに患者様の五臓六腑・経絡の状態を詳しく探査できる脉(みゃく)診・腹診を重視する経絡治療は、知覚し直観していると言えるのではないでしょうか?治療の方法が患者様の体質と病態に合わせたオーダーメイドのものであるため、一般性はそれほどないですが、本質により近いと思われます。
 そして多くの人が共通して快癒体験すれば、間主観性の共通了解になると考えるのですがいかがでしょうか。

 清水はり灸療院のサイト トップページへ